*1 「臓器の移植に関する法律」平成9年7月16日 法律第104号、平成9年10月16日施行
*2 「『臓器の移植に関する法律』の運用に関する指針」保健医療局発第1329号平成9年10月8日
*3 臓器を提供して死を看取ったドナー家族の心理に関しては、拙論「臓器提供とドナー家族の悲嘆心理―内外の文献研究から―」大阪大学大学院医学系研究科医の倫理学教室『医療・生命と倫理・社会』第二号2003年を参照下さい。
*4 さらに移植待機者側に目を向けると、移植術にコンセントやアセントが取れない年少の人や待機中に亡くなった人の死という沈黙も加えられるだろう。
*5 町野案は、「親権者」は子供の生存中の資格であって、子供の死後は「親権者であった者」としているが、ここでは区別しない。
*6 「角膜及び腎臓の移植に関する法律」昭和54年12月18日法律第63号、昭和55年3月18日施行、平成9年10月16日廃止
*7 守田憲二氏は「心停止後」と言われる臓器摘出の実情を、多くの臨床報告を収集して解説している。
http://www6.plala.or.jp/brainx/
*8 諸説の解説に関して、平林1984、金澤1984、岩志1985等を参照。
*9 しかし、丸山氏は意思を表明できない子供の摘出除外を主張してはいない。「重点は提供者本人による提供に置かれており、また一般的には近親者ではない他人の死体臓器を利用することが考えられていたのであった。このように考えると異議を表明できない幼い者を、死体提供の対象から除くということが可能のようにも思われるが、やはり全面的に除外することの不都合が大きかったのであろう。この問題も、未成年者からの生体臓器の摘出と同じく、疑問点を指摘することはたやすいが、現実的な解決策の呈示は至難をきわめるものである、と残念ながら告白せざるを得ないのである」(丸山1980)。
*10 反対意思表示方式への反論として、旧西ドイツで1979年に移植法を審議した際のものが、岩志1985、岩志1984に伝えられている。「マウアー(Mauer)は、反対の意思を表示しないことについては、@当事者が、臓器提供の問題と当面することがなかった、A無関心だった、Bその問題を意識的に回避した、C最終的結論に達していなかった、D拒否の意思をもちながらもそれを公にすることを好まなかったなど多種の理由が考えられ、反対をしていないことイコール同意というテーゼは必ずしも保持できるものではない……」(岩志1985)。「Leonardy(リヒターブント)(裁判官の団体)によれば、反対意思表示方式は、@人間の尊厳を侵害する。A満16歳以下の者の取扱に疑念がある。Bまず他の方法によって移植片獲得がさぐられるべきである、などの点で当を得ないとされている」(岩志1984)。
*11 人格権の残存という発想には、本人の意思の尊重という意味での人間の尊厳性の保持だけでなく、本人の意思を越えた身体の不可侵性に由来する人間の尊厳性の保持をも含める課題もあるように思われる。(しかし、いわゆる「生命倫理法」によって「人体の不可侵性inviolabilite」を謳っているフランスは、死後(脳死後)の臓器摘出について反対意思表示方式を採っている。)倉持氏(倉持2003)は、人格権の残存という発想に、本人の意思を越えた遺体の手段化を禁じる規範を含めて、遺体の利用は「人間のWesenの侵犯」であるとする。したがって、倉持氏において脳死臓器移植の是非は、提供の自己決定権、つまり自らのWesenを抛棄する権利が人格権を凌駕するにたるための条件が揃っているか否かが争点となる。
*12 拙論「浮遊する自己決定―臓器移植法改正によせて―」関西大学哲学会編『哲学』第20号2000年を参照下さい。
*13 「児童の権利に関する条約」1989年第44回国連総会採択、1994年日本国批准。
http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/jido/zenbun.html
 しかし、「児童の権利に関する条約」が子供に対する扱いに関して「児童の最善の利益」を原則にし、「児童が生命に対する固有の権利を有することを認め」、「児童の生存及び発達を可能な最大限の範囲において確保する」(第6条)ことを目的とする以上、条約の論理がレシピエントに対しては妥当するとしても、ドナーに関しては、治療停止と臓器摘出自体が「児童の最善の利益」ないし「生存及び発達」の確保にあたらず、子供からの臓器摘出の条件に関して適当かどうかは疑問があるという考え方もある。
*14  A案:15歳未満12歳以上の場合は「本人の意思表示」および「親権者による事前の承諾」がドナーカード等によって確認されている場合であって親権者が拒まないときに限り「法的脳死判定」および「脳死状態からの臓器摘出」を可能とする。12歳未満6歳以上の場合は、上記の条件に加えて、子どもが虐待によって脳死になった形跡がないこと「本人の意思表示」が強制によってではなく自由意思によってなされたものだと考えられること等を、病院内倫理委員会(あるいは裁判所)が審理するという条件を追加する。6歳未満の場合は「法的脳死判定」および「臓器摘出」を行なわない。
 B案:15歳未満12歳以上の場合は「本人の意思表示」および「親権者による事前の承諾」がドナーカード等によって確認されている場合であって親権者が拒まないときに限り「法的脳死判定」および「脳死状態からの臓器摘出」を可能とする。12歳未満の場合は、「法的脳死判定」および「臓器摘出」を行なわない。
*15 「小児の自己決定権を侵害する端的な例が親権者による虐待死の場合で、加害者である親権者による代諾によって脳死臓器提供となる事例である。/ 欧米でのHettler JらやLane WGの最近の報告によると、0〜3歳までの頭部外傷の30%、骨折の52.9%(minority children)が虐待による。また、わが国では重症頭部外傷の20.4%、小児科医を対象としたアンケート調査によれば頭部外傷の10〜40%は虐待の可能性が指摘され、虐待と診断し得るまでに2週間から1カ月以上の期間を要し、虐待を見逃してしまう症例も存在する」(日本小児科学会2003)。
*16 「患者が未成年者あるいは法的無能力者である場合は、本来患者の同意が必要な状況では患者の法定代理人の同意を求めるべきである。その場合であっても、患者をその能力の許す限りにおいて意思決定に参画させねばならない」(患者の権利に関する世界医師会リスボン宣言1981)。
*17 てるてる案(西森2000)は、脳死・臓器移植に関する基本的な知識を確認する「チェックカード」への記入を提供の必須条件とし、意思表示カードの類の配布は、特定の機関によって説明がなされた上での配布を規定している。また、6歳以下の脳死状態での提供を以下のような条件で可能性を提案している。てるてる案はいっけん複雑であるが、あくまで本人の提供意思を原則としつつ、低年齢の移植用臓器の必要性を考慮したもので、注目に値する。
(1)親がそのこどもを虐待していない。
(2)親が、こどもの死を受け容れている。
(3)親が、医師や看護婦などの医療従事者であるか、または、家族や親戚、友人・隣人・同僚等交友関係者に、移植待機患者や移植手術を受けた人がいて、移植医療の意義を理解している。
(4)そのこどもの『脳死』状態が既に一ヶ月以上持続しており、親が、看護、または、看取りをする時間が充分に確保され、必要に応じてソーシャルワーカー等のケアを受けて、さらに長期間にわたって、看護または看取りを続ける経済的精神的余裕を残している。
(5)こどもが、生前、生や死について親と語り合ったことがあり、こどもが死ぬときに、他のこどものために臓器や組織を提供することがこども本人の気持ちに添うと信じるに足る証拠を書面・絵・ビデオ等で、親が提出することができる。
(6) 以上のことを家庭裁判所で審査する。
*18 岡田2003を参照下さい。
*19 ここで本稿はレヴィナスの言語論に依拠している。詳しくは岡田1997を参照下さい。

文献表

岩志 1984:岩志和一郎「各国の立法―西ドイツ」『比較法学研究』46号1984年
岩志 1985:岩志和一郎「臓器移植と民法―死体臓器の摘出と不法行為の可能性」『ジュリスト』828号1985年
岡田 1997:岡田篤志「レヴィナスにおける言語と倫理」『倫理学研究』関西倫理学会編第27集1997年
岡田 2000:岡田篤志「浮遊する自己決定―臓器移植法改正によせて―」関西大学哲学会編『哲学』第20号2000年
岡田 2003:岡田篤志「臓器提供とドナー家族の悲嘆心理―内外の文献研究から―」大阪大学大学院医学系研究科医の倫理学教室『医療・生命と倫理・社会』第二号2003年
金澤 1984:金澤文雄「臓器移植と承諾―角膜・腎臓移植法の解釈をめぐって―」『廣島法学』8(2.3)1984年
金澤 1992:金澤文雄「脳死と臓器移植についての法的考察」『現代法の諸相』岡山商科大学法経学部創設記念論集1992年
北村ほか 2002:北村惣一郎ほか「わが国における心臓移植と問題点」『移植』日本移植学会雑誌37(4)2002年
倉持 2003:倉持武「脳死移植への基本的立場」、「脳死」・臓器移植を問う市民れんぞく講座2003年8月24日講演
杉本ほか 1986:杉本健郎、杉本裕好、杉本千尋『着たかもしれない制服』波書房1986年(絶版、杉本2003に一部再録)
杉本 2003:杉本健郎『子どもの脳死・移植』クリエイツかもがわ2003年
永井ほか 1990:永井憲一ほか『解説子どもの権利条約』日本評論社1990年
日本小児科学会 2003:日本小児科学会「小児脳死臓器移植はどうあるべきか」2003年4月26日
http://www.jpeds.or.jp/saisin-j.html
西森 2000:西森豊「脳死否定論に基づく臓器移植法改正案について(てるてる案)」『現代文明学研究』第3号2000年
http://www.kinokopress.com/civil/0302.htm
平林 1984:平林勝政「各国立法の小括と『承諾』権の一考察」『比較法学研究』46号1984年
町野 2000a:町野朔ほか、厚生科学研究「臓器移植の法的事項に関する研究―特に『小児臓器移植』に向けての法改正のあり方―」2000年8月
町野 2000b:町野朔「現行臓器移植法の問題点―法律家の立場から」第8回トリオ・ジャパン・セミナー「臓器提供―現状と課題」2000年7月8日講演
丸山 1978:丸山英二「臓器移植をめぐる法律問題―アメリカ法の対応―(3)」『神戸法学雑誌』28(2)1978年
丸山 1980:丸山英二「臓器移植をめぐる法律問題―アメリカ法の対応―(5)」『神戸法学雑誌』29(4)1980年
丸山 1984:丸山英二「臓器移植の比較法的研究、各国の立法―アメリカ」『比較法学研究』46号1984年
宮崎 2001:宮崎真由「『死者の人格権』の可能性―臓器移植法改正に向けて」『現代文明学研究』第4号2001年
http://www.kinokopress.com/civil/0402.htm
森岡 2000a:森岡正博「子どもにもドナーカードによるイエス、ノーの意思表示の道を」『論座』3・4月号2000年
森岡 2000b:森岡正博「臓器移植法・「本人の意思表示」原則は堅持せよ」『世界』2000年10月号
森岡・杉本 2001:森岡正博・杉本健郎「子どもの意思表示を前提とする臓器移植法改正案の提言」2001年2月14日
http://www.lifestudies.org/jp/moriokasugimoto-an.htm
柳田 1995:柳田邦男『犠牲、わが息子・脳死の11日』文藝春秋1995年
吉川 2001:吉川隆三『あぁ、ター君は生きていた』河出書房新社2001年
CESP 2003:De Lourdes Levy M, Larcher V, Kurz R,Informed consent/assent in children. Statement of the Ethics Working Group of the Confederation of European Specialists in Paediatrics (CESP).European Journal of Pediatrics,2003;162(9):pp,629-633.
Zawistowski & Frader 2003:Christine A. Zawistowski & Joel E. Frader,Ethical problems in pediatric critical care: Consent.Critical Care Medicine 2003;31(5):pp,407-410.

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